東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)7号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件発明は、次に説示するとおり第一引用例ないし第四引用例に基づき容易に発明することができないものとみるを相当とし、原告の主張はすべて理由がないものといわざるをえない。
1 第一引用例の記載内容及び本件発明と第一引用例記載の技術との相違点について
前記当事者間に争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第六号証(本件発明の特許公報)を総合すると、本件発明は、熱可塑性プラスチツク又はその発泡体からなる平板(以下「平板」という。)を素材とし、平板が熱可塑性である点に着眼して、平板自体の溶着特性を利用して溶着箱を成形することを目的とし、本件発明の要旨のとおりの構成、特に本件審決が本件発明の骨格を形成する構成要件として認定したとおりの溶融平板の作成工程及び溶着成形工程からなる構成を採用したものであり、平板の「各側面部端部に接合面を成形するように溶融切断し、そのように成形された接合面の隣接する溶融表面を相互に溶着させる」ことは構成上の一つの特徴をなすものと認められ、右の特徴をなす構成により、箱の角部が正確に形成され、接着強度のすぐれた溶着箱が簡単な方法で製造できるという顕著な作用効果を奏するものと認められる。他方、成立に争いのない甲第一号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、溶着可能なプラスチツクフイルムからケース状中空体を製造する方法及びその実施のための装置に関する発明が記載されており、そのケース状中空体には、側面14、15が設けられているところ、前記当事者間に争いのない本件発明の要旨と対比すると、右の側面14、15の端部が本件発明にいう「接合面」に対応するものと認められるが、第一引用例には、側面14、15の端部にフラツプ24、25を連接して設け、このフラツプ24、25を折りたたんで下面17の内側に入れ、フラツプ24、25と下面17とを相対するように重ね合わせ、電極45、46により縁18、19の個所で溶着してケース状中空体を製造する方法が記載されているにとどまり、前記本件発明の特徴をなす構成は、何ら開示されていないし、この点の技術的思想を示唆するところもないことが認められる。
原告は、第一引用例には本件発明の前記特徴が開示されている旨主張する。しかし、前掲甲第一号証によれば、(一)原告引用の第一引用例の二頁一一行ないし一五行には、「ケースの形に折られた後、縦の縁18、19及び横の縁20、21の上を溶着線によつてシールされる。」と、(二)同二頁七二行ないし八〇行には、「フイルム10から打ち抜いた半製品を枠41にはめ込み、電極45を差し込むと、半製品は折りたたまれ、しかもまず第一に前面11が下面と一緒に、そして側面14、15も後面12に対して直角になるように曲げられる。」と、(三)同三頁五行ないし一一行には、「半製品を枠41に取り付け、中に電極45、外に電極46を当てるとすぐに縁18、19で溶着が行われる。このとき、当然フラツプ24、25(第2図)は下面17の奥に折りたたまれていなければならない。」と、(四)同三頁一二行ないし一六行には、「耳折れ22、23を電極45上に折り、前面11をその上に重ね、上から電極47を半製品上に降ろすことによつて、最後に横の縁20、21が溶着される。」とそれぞれ記載されていることが認められるが、右(一)及び(三)の溶着は、前認定のとおりであつて、本件発明のように、「側面部端部に接合面を形成して、成形された接合面の隣接する溶融表面を溶着させる」ものではなく、また、右(二)には、本件発明の右特徴に関する開示があるとは認められず、更に、右(四)の耳折れ22、23は、本件発明の接合面に対応するものではなく、その溶着手段にしても、右(一)及び(三)の溶着手段と同様であると認められる。
したがつて、第一引用例に本件発明の特徴である溶着成形工程に対応する工程が開示されているという原告の主張は、採用することができない。
2 第二引用例の記載内容及び本件発明と第二引用例記載の技術との相違点について
成立に争いのない甲第二号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、クツシヨン成形体の製造装置の発明が記載されており、その三欄三三行ないし五一行には、「複数個の加熱体がチヤツク234の下面に固定されている。刃242、その対向する横棒の端部243及び平行突出部分244は、前進してきたシートをそれぞれ面22、23、24に沿つて切断する。第2A図は、刃の各部分が、チヤツクプレート234の下側に取り付けられている加熱体245に、どのように接続されるかの関係を示す部分図である。加熱素子の一端は、参照番号246で示してある。四つの溝ほり素子252、266及び262は四角形の形に配設してある。加熱体のそれぞれは、下方に向かつて並んだ溝ほり面264及び268を形成している。これら加熱体の高い温度は、例えば265及び269で示すような挿入された加熱素子で保持される。切断と溝ほりとをこの装置で行つたのち、作動部材270、275、280及びもう一つの作動部材(図示せず)、作業テーブルの内側に折れる部分204、205及び208によつて、シート20の切断面をよせ合わせて押し付ける。これによつて、溝ほりされ加熱された界面の熱可塑性材料は、流れて一体となり、箱形のクツシヨンの壁を溶着する。」と記載されていることが認められ、右記載によれば、第二引用例記載の方法においては、シートの溶融成形工程で、クツシヨン成形体の側壁となる部分の両端に面23、24を溶断して成形しているが、同号証によると、その図面中第9図にみられるとおり、面23、24は、その面同士が相互に溶着するものでないことが認められる。したがつて、第二引用例には、本件発明の特徴である平板の「各側面部端部に接合面を成形するように溶融切断し、そのように成形された接合面の隣接する溶融表面を相互に溶着させる」技術的思想が開示されているという原告の主張は、採用することができない。
3 第三引用例の記載内容及び本件発明と第三引用例記載の技術との相違点について
成立に争いのない甲第三号証(第三引用例)によれば、第三引用例には、合成プラスチツク製容器の成形方法の発明に関し、パンチ10でダイ12内に合成プラスチツクシートを押し込み、折り曲げ起立させると同時に、四隅にはみ出した二重の三角形のシート部分を溶融切断し、同時に隣接する側面端部を溶着するようにした箱の成形方法が記載されていることが認められ、右認定の第三引用例記載の方法と前認定の本件発明の骨格をなす構成とを対比すると、両者は、本件審決認定の点でのみ一致し、その他の点で相違することは明らかである。原告は、第三引用例には本件発明における溶融平板の作成工程と溶着成形工程とを同時に行う方法が開示されており、シートを平板状に置換すれば、当然に本件発明の右の二工程が着想できる旨主張するが、前認定の本件発明の構成と第三引用例の前認定の成形方法を対比すれば、本件発明の溶融平板の各側面部端部に接合面を成形するように溶融切断する溶融平板の作成工程と接合面の隣接する溶融面を相互に溶着する溶着成形工程は、第三引用例の方法とその構成及び技術的思想を異にすることが明らかであり、この点について第三引用例に記載がないとした本件審決の認定に誤りはない。したがつて、原告の右主張も採用することができない。
4 本件発明が各引用例から容易に発明することができるか否かについて
叙上認定説示したところによると、第一引用例ないし第三引用例には、本件発明の特徴とする前記構成又はこの点の技術的思想を開示するところがなく、また、原告自認に係る第四引用例の記載内容によれば、第四引用例も本件発明の右構成についての技術的思想を欠くことは明らかであり、叙上事実に前認定の本件発明の右構成がもたらす顕著な作用効果を総合勘案すると、本件発明をもつて第一引用例ないし第四引用例記載の技術事項から容易に発明しえたものとみることはできないものといわざるをえない。なお、原告は、本件発明の右作用効果は、第一引用例ないし第三引用例記載の方法から、予測しうるものである旨主張するが、前認定のとおり右作用効果をもたらす本件発明の前記構成を第一引用例ないし第三引用例が欠除する以上、右各引用例の記載から本件発明の右作用効果を予測しうるものとすることはできない。
更に、原告は、本件発明は、第一引用例ないし第三引用例あるいはまた第二引用例に基づいて容易に発明しうるものである旨縷々主張するが、前認定説示のとおり、第一引用例ないし第三引用例には、本件発明の特徴をなす前記構成ないしこの点に関する技術的思想について何ら開示し、又は示唆するところがなく、また、右構成によつて顕著な作用効果が奏されるのであるから、たとえ本件発明と右各引用例との間に他に一致するところがあつたとしても、本件発明は、他に格別の判断を加えるまでもなく、右各引用例に基づき又はこれを組み合わせることにより容易に発明しうるものとなしえないものというべく、したがつて、原告の右主張は、いずれも採用するに値しない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
熱可塑性プラスチツクまたはその発泡体からなる平板を素材とし、その溶着特性を利用して、箱の底の折曲部や隅の接合部を溶着して出来た溶着箱の成形において、金型、押え板、多角柱折曲枠または側面支持板の各装置を使用した成形法であつて、金型は中央の多角形突起条と、その各辺の頂点部に突設した側面突起条とから構成され、側面突起条は多角形突起条より突起して、二種類の突起条の間には突起差(段差)のある形状で、各突起条に加熱装置を付設したものであり、多角柱折曲枠または平板支持台の定位置に、素材である平板をセツトすると、加熱された上記金型が作動して該平板に着接して溶融を開始し、その多角形突起条の部分で該平板を底面部と各側面部とに区分けする多角形V字溝に溶解し、同じく側面突起条の部分で各側面部端部を接合面に溶断して溶融平板を作り、続いてその溶融面が硬化しないうちに、押え板が該溶融平板の底面部を押圧している状態において、上昇する多角柱折曲枠の枠内に該溶融平板を挿入して、または、側面支持板を回転させて、多角形V字溝から各側面部を同時に起立させて折り曲げることによつて、該溶融平板に出来たすべての溶融面同士、即ち、多角形V字溝の溶解面及び各側面部端部に出来た隣接する二つの接合面の溶断面同士が相互に密接するだけで溶着することを特長とした溶着箱の成形法。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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